2016年6月13日月曜日

賢者の巻物 ⑩ 「相対性理論」アインシュタイン


駅を通過中の列車の中でAさんが、プラットホームでBさんが、同時にボールを下に落とすとします。AさんにもBさんにも、自分のボールは真下へ向かっているように見えます。しかし、列車の速度で進むAさんのボールを、静止しているホームのBさんが見ると、電車の進行方向斜め下向きに進んでいるように見えるはずです。すると、Aさんのボールが移動する距離は、Bさんのボールが移動する距離よりも長くなります。でも、落ちるのは同時。時間は、距離割る速さで求められます。Aさんのボールは、落下速度に列車の速度を加えた速さで進むので、距離も長いけど速度も大きい。ですから、床に到達するまでの時間はBさんと等しくなるというわけです。

次に、宇宙ステーションを光速に近い速さで通過するロケット内でAさんが、宇宙ステーションでBさんが、同時に真下へ向けて懐中電灯の光を照射するとします。すると今度は、Bさんが放つ光が床に到達した時、Aさんの放つ光はまだ床に届いていないのです。なぜでしょう。光速は秒速30万kmより速くはならず、そのため光速で直進するロケットの速度を加えることができないからです。よって、距離は延びるが速くはならない。ですから、Aさんの照射する光が進む時間は、ロケットの移動する距離の分だけ、Bさんを基準にすると遅くなるのです。

1905年、スイスの特許局に勤めていたドイツ生まれのユダヤ人アインシュタインは、博士号取得のために提出した「特殊相対性理論」に関する論文により、人類の世界観に変革をもたらすことになりました。

ニュートン力学は、宇宙に絶対的な時間と空間があることを前提に構築されていたが、電磁気学におけるマクスウェル方程式の発明と、光の不思議な性質の発見で、この前提は覆ることになります。赤道上、地球の自転速度は時速1700km。太陽からの光は、太陽へ向かう位置の方が、太陽から離れる位置より、速くなるはずです。ところが、その差は測定されません。この光速度不変の原理を基に、アインシュタインは科学的事実として、つまり、数式による事象の言明として、絶対的な時空間を否定しました。その代わりに、光速が絶対的な尺度の王座へ就くことになりました。 

慣性系の速度の違いによって、時間は伸びて空間は縮みます。更に、光速に近づく物質の質量は急速に増大して加速を抑え、秒速30万kmを越えないようにブレーキがかかります。質量の増大はエネルギーの増大を意味します。E=mc2。これもまた、アインシュタインが導いた結論の一つです。

1916年、重力が質量による時空間の歪みであることを示すアインシュタイン方程式の完成とともに、「一般相対性理論」が発表されると、次のことが認識されるようになります。つまり、不動の時空間は存在しないこと。時空間は、歪み、捩れ、消え去りもするということ。

これが、数式の描く宇宙の実在です。

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