2016年3月26日土曜日

賢者の巻物 ③ 「経済学・哲学草稿」K・マルクス

   僕たちは、グローバル化した資本主義社会を生きています。それは、自らの意志と努力によって夢を実現できる社会、ということになっています。様々な事業、最近ではIT関連で億万長者になった企業家や投資家たちの存在が、確かにそれを実証してはいます。しかし、その一方には、就職難・リストラ・非正規採用などの理由で、安定した所得を得られな人たちもいます。また、モノカルチャー経済の下で、先進国市民の贅沢心を満たすために、低賃金で働く途上国の労働者たちもいます。彼らは、自分の働く農場のカカオで作られたチョコレートケーキを、一生口にすることがありません。

   産業発展の著しい19世紀のドイツ。そこでは、自由を実現する精神の運動として世界史を説くヘーゲルの観念論哲学が、近代哲学の完成体として勢威を奮っていた地でもありました。ユダヤ系ドイツ人のマルクスも、そのヘーゲル哲学を学んでいた一人の哲学青年だでした。自由主義者で多少浪費癖のあったこの青年は、大学教授職を目指していましたが、それに失敗、ジャーナリストになることでその運命を大きく変えることになります。自由主義の立場から封建的保守体制を批判していく過程で、資本主義社会における労働者の悲惨な窮状を見て、資本主義がその正当性の根拠にしたアダム・スミス等の国民経済学について研究しました。そして、社会主義者、共産主義者に生まれ変わります。「経済学・哲学草稿」は、26歳のマルクスが、経済学により理論的支持を得ている資本主義が生み出す社会矛盾を指摘しつつ、自らの思想基盤であったヘーゲルの観念論と西洋哲学を攻撃する論文であり、後の大著「資本論」のルーツとなる草稿です。

   資本主義下の労働者は、資本家の富が増せば増すほど窮乏し、自分が生産した製品を自分の物とすることのできぬ労働に、疎外感を抱かざるを得ない存在となります。格差は広がり、対立は深まり、人間性は失われていきます。経済学は、公平な競争が国家の富を増やすとして資本家の活動を擁護しますが、現実には格差は拡大する一方です。哲学は、観念の整合的な体系化を目指して、ヘーゲルはそれに成功したともいえますが、現前する生の社会問題に対しては力を持ちません。マルクスは、ヘーゲルの観念論を批判したフォイエルバッハの唯物論を更に進め、類的存在としての人間、生の社会的存在としての人間に全ての根拠を置きました。そして、人間が社会的存在としての自己を取り戻すため、科学的に社会と経済を分析し、資本主義を打倒する革命の意義を説いたです。

   歴史上、マルクス思想による革命は、結果的には失敗しています。でも、資本主義の矛盾は消えず、社会的存在であろうとする社会主義の実践的活動は、今なお続いています。

0 件のコメント:

コメントを投稿