三平方の定理からフェルマーの最終定理まで、数学の世界には、たとえ地球が滅んでも変わることない絶対不変の定理があります。科学の世界でも、ニュートンの万有引力の法則やアインシュタインの相対性理論で示された数式は、絶対不変のものです。
ところが、数式は不変でも、万有引力の法則と相対性理論では、世界観に大きな差があります。前者は万物が質量に応じて持っている「引きつける力」を重力と説明しましたが、後者は重力を「時空の歪み」と捉えました。進歩した、20世紀の実験装置を使った観測は、後者の理論の正しさを示したようです。科学的説明は、数学上の定理を表す数式と異なり、実験と観測次第で、新しいモデルへと更新されていくもののようです。
2400年前、ギリシャはアテネの哲学者プラトンは、感覚で捉えられる世界を、人によって捉え方が異なる相対的で不完全なものと考えました。そして、ピタゴラスの定理など、数学上の定理や公理といった、法則や概念の世界こそが絶対的な実在であるとし、それをイデア界と呼びました。感覚で捉えられる世界は、真か偽か決められないものだとして、その実在を否定しました。
しかしこのイデア論、今度は、マケドニア王国出身のプラトンの弟子アリストテレスによって批判されます。「感覚的現実世界を越えたイデア界など、存在しない」と考えた彼は、イデアの代わりに形相(エイドス)という概念を用い、形相は感覚的にとらえられる個物の質料(ヒュレー)に内在するものとし、感覚器官を通して知覚できる、物質的な現実世界の実在を主張しました。
イデアは完全不動のもの。でも、それでは、オタマジャクシからカエルに変化する生き物のイデアはどうなるのでしょう。アリストテレスは師が否定した感覚的経験と、物事の詳細な観察を重視しました。そして、物理学・天文学・気象学・動物学・植物学と幅広い分野を研究して体系化し、万学の祖となり、近代科学のルーツを築きました。
師プラトンの著述がキリスト教世界の哲学と神学に影響したのに対し、アリストテレスの研究はイスラム教世界の哲学・神学に影響を与えたため、イスラム教世界が西洋に先立って科学を発展させることになります。やがて、彼の哲学は中世ヨーロッパに逆輸入され、ルネッサンスの起因の一つとなり、西洋科学を飛躍させることになります。
しかし、偉大な彼の物理学や天文学上の説明は、天動説などその多くが近代になって否定されます。また、ルネッサンス期に復活したプラトン主義と再び対峙し、科学の対象となる「感覚的現実世界が実在するのかしないのか」は、その後も様々な形で議論が続けられる哲学上の大問題となります。
山田太郎
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